破風口へ這い上がる ~崩レノ沢~
破風口(はふぐち)ってあるでしょう。西丹沢の大室山と加入道山の間にあるキレット。
キレットには安全な巻道が付いているから、登山道を歩いていてもそれほどすごいキレットとは思はないかもしれないけれど、善六山辺りから見ると、ものすごく切れ込んだコルだって事がよくわかる。
風の通り道だから破風口っていうんだ。いつも風がビュービューと吹いている。
恐ろしげな場所さ。
もう3~4年も前くらいだったかなぁ。AYさんが「下から破風口に登ってみたいんだよねぇ」と言った事がある。
何言ってんだ・・・と思った。「そんなん無理ですよぉ」と答えた記憶がある。
絶対無理だと思った。破風口から下を覗きこめば、恐ろしい急斜面だ。脇から破風口に登っていく沢筋を見れば、そこだけ木が生えていないガラガラの急斜面がくっきりと見える。
無理無理・・・と思いながらも、AYさんの言葉が妙に引っ掛かっていた。地図を調べてみる。白石沢から破風口へ向かっている支沢は崩レノ沢(ざれのさわ)っていうらしい。名前からして登るの無理って感じじゃん。1100mからの等高線の間隔の狭さっていったら・・・やっぱ無理だよ。
なのに、この近辺を歩くたびにAYさんの言葉を思い出して、つい気にして見てしまう。白石峠登山道から崩レノ沢を見上げながら、「途中までなら楽勝で行けるな」とか思ってしまう。破風口から下を覗きながら、「なんとか這い上がれる角度かなあ」とか思ってしまう。
そんな時、破風口の別名が“孫六峠”という事を知った。もちろん乗越す経路は無いし、昔は有ったという話も見当たらない。
でも“峠”の名が付いているって事は、破風口を乗越して道志と中川を行き来してた奴もいたのかもね・・・なんて思ってしまう。
だんだん「もしかしたら登れるかも」という思いが強くなってくる。というより「登ってみたい」と思うようになってきた。
そして・・・
もちろん、言い出しっぺのAYさんをお誘いして・・・
這い上がってきました。
メンバー : AYさん shiro
危険が予想されるコースだから、事前に崩レノ沢の事はネットでさんざん調べた。
が、上流部まで歩いた記録は一つもヒットせず。
AYさんも調べてきたらしい。どぶ鼠さんのHPに『破風口から崩レノ沢を下降』という短い記述があったらしいが、詳しくは書いていなかったらしい。どぶ鼠さんはオイラとは比べものにならない超人だから、参考にしてはいけないが・・・。それでも下降した人がいるって事は登れる可能性も有るって事だ。
AYさんと『無理はしない』『無理だと感じたら撤退する』という事を再確認して崩レノ沢へと向かう。
白石沢から崩レノ沢沿いを辿っていた登山道は、標高900m付近で崩レノ沢と別れて尾根を乗越して再び白石沢へ向かう。(地図を見ながら歩いている人は知っていると思うけど、この登山道、地形図に引かれた経路線と実際の道筋が全く違うんです)
8:00 この道標で登山道に別れを告げ、崩レノ沢へと突入します。
大きな岩、小さな石が織り交ざって広大なガレ場となった沢筋。
わずかに水流はある。
標高960m付近、三又になっている。右又は崩レノ沢、中又は孫六沢、左又は走水沢。水は走水沢からだけ流れ込んでいる。孫六沢と崩レノ沢はガラガラとした涸れ沢。
もちろん崩レノ沢へ進む。
標高1100m付近に石小屋発見。沢のど真ん中にデ~ンとある。
「雨宿りにはもってこいだねぇ」などと言ってみたが、こんな場所で雨に降られたら死活問題だ。雨宿りできればいいって問題じゃない。
石小屋のすぐ上が二又。
地図を確認して、破風口へ向かう左へ入る。
地形図でも確認できる通り、1100mを越えるとだんだん傾斜が立ってくる。
角度を確認するため、カメラを水平に構えて真横を撮ってみた。
約30°ってとこか。
木の生えた土斜面ならどうって事ない角度だが、浮石だらけのガラガラ斜面では緊張を強いられる角度だ。
一歩一歩、足を置く石を確認しながら登る。
標高が上がるにつれ、傾斜はどんどん立ってくる。
ラクを起こさないように細心の注意ははらっているが、それでも縦に連なって歩くのは危険だ。
AYさんは左岸、オイラは右岸と別れて登る。
ヤバくなってきたら尾根に逃げようと思いながら登っていたが、尾根はもっとヤバそうだった。両岸の尾根とも岩尾根で、溝が走っている場所はキレット状になっていた。
もうここまで来たら、何が何でも沢筋を登りきるしかない。
初冬だというのに汗が噴き出す。
標高1300mを越えたあたり。前を歩いていたAYさんがにこやかに振り返えりながら、上を指差した。
「破風口が見えたよ!」
感無量・・・
ただガラガラしてるだけのクソつまんない沢を登りつめただけの話だけれど、とにかく達成感と充実感に包まれた。
自画自賛になるけど、ようやった。
加入道山で一休みした後、さらに登山道を南へ歩く。
白石峠を越え、水晶沢ノ頭を越え・・・
P1191シャガクチ丸の少し手前。
帰りのルートは、ヤブ尾根下降でモロクボ沢へ降り、モロクボ沢を横断して越場ノ沢から善六のタワへ上がろうって趣向だ。
人が歩いた気配が全く無いヤブ尾根を歩くのは大好きだ。
RFしながらの未知尾根下降も大好きだ。
でも本当にAYさんのRFには感心するし、勉強になる。
AYさんは高度計は持って歩かないし、コンパスも見ない。地図は見るけど頼ってはいない。あくまでも地形を見ているんだ。地図読みではなくて地形読みだ。
こういうのが“ルートファインディング”って言うんだろうなと思う。
地図や高度計を凝視するオイラは、まだまだAYさんにはかなわない。
11:40 AYさんの見事なRFで、越場ノ沢出合付近にピッタリ下降。
滝場の無さそうだし楽勝だな…と思っていたが。
ショボイ沢だが、わずかながら水流がある。落ち葉の下は水がチョロチョロ流れる岩盤。
登山靴のオイラはヌルヌルと滑って苦労する。
沢靴だったら楽勝なんだけどなぁ・・・。
稜線のコルが見えたが、前方は5mの垂直スラブ。
どうやら善六のタワの一つ畦ケ丸寄りのコルへ詰めてしまったらしい。
正面のスラブはとても登れないから、右岸の斜面を這い上がる。ギリギリの急斜面だった。
12:30 善六のタワの少し西のコル。
ちょっとだけ痺れた・・・。
下山ルートはお気楽モードだっただけにね。
その後は本当にお気楽ハイキングモード。
一応Vルートではあるけれど・・・。
善六のタワから善六山へ登りランチ休憩。
AYさん曰く、岩がちの尾根のモミジは色鮮やかなんだとか。理由は知らないけれど・・・。
とにかく紅葉が綺麗な尾根だった。
14:25 無事、用木沢出合に帰還しました。
崩レノ沢。後から写真をチェックしても、なんも見るべき景色が無い沢だった。
最初から最後まで、ただガラガラの斜面を登っただけ。
でも、楽しかった。この達成感は人にはわかってもらえないだろうし、説明もできないけれどね。
『破風口へ這い上がった』意義は、自分の中ではとっても大きいんだ。
でも、おススメはしない。
危険な沢である事は間違いないし、危険を承知で行く価値が有るかと言われれば、たぶん無いだろう。
オイラも、たぶんもう行かない。
1度歩けば十分。そんな沢だった。
でも、充実感はタップリなんだよ。
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コメント
さっそく行かれたのですね(^^)
破風口直登!
shiroさんとAYさんの足でも、2時間20分ですか。
(十分に特急ですけれど)やはり大室山稜線はデカいですね(^_^;)
塩地窪ノ頭からの下り、夏にとったルートですが「ここは紅葉時にもう一度来たいな。」と思っておりました。
やはり良かったのですね。
来年に楽しみにしておきます。
投稿: レガー | 2013/11/28 11:13
レガーさん、こんばんは。
とにかく浮石だらけの沢だったので、かなりゆっくりペースで登ったんですよ。
大室山の南面はどこを登っても急登ですね。
大室山南面にはまだまだ未踏の尾根や沢がたくさんありますから、今度ぜひ一緒に行きましょうね。
塩地窪ノ頭東尾根、もうチェック済みでしたか!
昔登りで使った事は有るのですが、下りは初めてでした。
下りで使うと、RF力が必要な尾根でした。
色鮮やかな紅葉が多くて、素敵な尾根でした。
紅葉の季節にはオススメです♪
投稿: shiro | 2013/11/28 21:56