プロローグ
玄倉林道の通行止めが続いている今、ユーシン辺りへ行くには寄から雨山峠を越えて行くしかないのか? 他にもルートは有るんじゃないか? と調べている時に引っかかってきたのが“山神径路(さんじんけいろ)”という古道の存在です。玄倉の集落からユーシン手前の雨山橋まで、玄倉川の南側の山腹に道が有るらしい。昔、ユーシン辺りにも集落が有って、その生活道路だった古道らしい。ところが、私が持っている『2008年版山と高原地図 丹沢』にはその道は載っていません。蕗平橋から山神峠までは赤破線(難路)で道の表記が有りますが、山神峠から先は道が書かれていません。
これはどういう事でしょう?
調べているうちにわかってきました。2000年前後に県でハイキングコースとして整備し直したものの、その後道が崩落して通行が危険になったため、2005年12月に県としては通行止めにしたとの事。そして地図からも消されたらしい。
“危険”・・・
“通行止め”・・・
おいおい・・・そんな言葉でオイラを誘惑するなよ・・・。
“地図から消された古道”・・・
なんて魅惑的なモチーフなんだ・・・。
これは行ってみないわけには、いかないだろう。
行くしかない! いくら荒れているといっても、そこに道はあったのだ。歩けないわけがない。
え? 「何故そんなバカな事をするのか」って?
そんなのは愚問だぜ。バカな事をしたいからに決まっているだろ。
さて、まずは下調べだ。崩壊後の道の様子を知ろうとググってみる。情報はおそろしく少ない。当たり前だ。通行止めの道なのだから、歩いている人などいるわけが無い。が、やはりそんな道をわざわざ歩く連中もいるのだ。検索で出てきたのはM-Kさんと仲間の達人連中。キリヤマ隊長率いるマイナールート探検隊。そして超人的な山歩きをする丹沢達人のイガイガさん。私が県の職員だったら「またこの連中か!」と叫んでいるに違いない。
イガイガさんの山行記を詳しく読む。道の崩壊は2箇所らしい。地形図と照らし合わせながら読み、頭に叩き込む。但しイガイガさんが歩かれているのは2年近く前だ。その後様子も変わっているかもしれない。
それでも行くしかない! 私も、あの猛者達に1歩でも近づくのだ!!
山神峠へ
10月4日(日)
朝7時少し前。寄大橋の駐車スペースに車を入れる。さあ、冒険の始まりだ。朝の冷たい空気に身震いをする。山神峠は、目の前にそびえる檜岳山稜の向こう側だ。
秦野林道を進み、中沢橋の少し先から伊勢沢ノ頭南東尾根に取り付く。このルートもイガイガさんのblogを参考にしている。バリエーションルートだから地図には載っていないルートだ。でも、檜岳山稜を越えて山神峠へ行くには、最短ルートらしい。尾根の上に乗ると仕事道に出た。整然とした植林の山を登る。なるほど、仕事道というのはよく考えられている。尾根のアップダウンをかわしながら、歩きやすいようにつけられている。地形図を見た時に、等高線の密度にゾッとしていた標高750mから950mにかけての急斜面も、ジグザグに道がつけられていて、それほど苦も無く登る事ができた。
1000m付近で植林地帯を抜けて自然林になる。この辺りで仕事道は無くなる。植林地じゃないのだから当たり前だ。林床は鹿が食べないマツカゼソウとトリカブトの草むらだ。草むらを踏み分けながら進む。昨日の雨露でズボンがぐっしょり濡れる。こういう道を朝一番で歩くと、必ずこうなる。Vルート歩きをするかぎり、これは仕方がない。もう馴れた・・・とは言え、やはり良い気持ちはしない。
9時 伊勢沢ノ頭に到着。南東尾根は、とても歩きやすい尾根だった。ここから山神峠へ向かって、反対側の尾根を下っていく。
山頂の北側へ回ると、尾根の下降口はすぐに見つかった。はっきりとした踏み跡がついている。少し降りると作業用モノレールの線路があった。線路に沿って歩きやすい尾根道を下って行く。気持ちの良い尾根歩きだ。
やがて線路と別れを告げると、尾根の形がはっきりしなくなり、踏み跡も消える。が、それほどの急斜面と言うわけでもなく、どこでも歩けるような斜面。コンパスで方向だけ確かめながら降りていると、下にうっすらと道標らしき影を見つける。あれが山神峠に違いないと、それを目指して進む。が、道標には山神峠まで140mの表記。う~ん、微妙に外したか・・・。目標は山神峠の上にピッタリと下降する事だったのだが・・・。
山神径路
9時40分 山神峠に到着。山神様に無事をお祈りする。
峠には通行止めの立看。ヨッシ! これからが本番だ。ザックの腰ベルトをギュッと締める。
立看の横をすり抜けたとたんに、この光景を目にする。完全に道が崩れ、木橋が宙に浮いている。
「いきなりかい!」
ここは冷静に周囲を観察。3mほど登れば、安全に巻けそうだ。
その後しばらくは、多少崩れた箇所は有るものの、比較的安全な道が続く。アッチ沢を越えしばらく進むと、モノレールの線路に出た。綺麗なテーブルが有るので、ここで小休憩。なるほど、先程尾根上で分かれた小尾根は、ここへつながっているのか。
ヘビ小屋沢の少し手前。道が完全に崩壊している。イガイガさんが書いていた、一つ目の崩壊地だ。確か、上を高巻くと書いてあった。上へ登れそうな場所を探して少し戻ると、踏み跡を見つける。やっぱり歩いている奴はいるんだ。踏み跡に沿って上へ登る。10m程登ったところで、踏み跡は二つに分かれる。さらに上へ登る跡とトラバースする跡。少し迷ったがトラバースしながら、崩壊地の真上へ出る。
なんとか渡れそう・・だが危険な香りもする。傾斜的には歩けそうだが、ザレた斜面は滑りそうだ。さらに上へ高巻いた方がいいかも。しばらく考えたが、思い切って踏み出す。すぐ下に立ち木が何本か有り、もし滑っても立ち木につかまれそうだと思ったのだ。
なんとかザレた斜面をこらえながら、渡りきる事ができた。
大崩壊地をクリアーして、径路歩きを楽しむ余裕も出てきた。良く見れば、なんとも趣の有る道じゃないか。古の人達が積み上げた石垣が続く。きっとこの道を樵たちが、材木を乗せた馬達が、あるいは鉱山目当ての山師達が行き来したのだろう。こんな素敵な古道、後世に残していきたいなあ。山道って人が歩かなくなると、どんどん崩壊していくものなんだ。この道もこのまま風化していくに違いない。
が・・・それもまた、自然の摂理か。
なんて思いを巡らせながら歩いていると、谷向こうの尾根に黒い影が。
「熊か!」 身体中に緊張が走る。 いや、熊じゃない。鹿・・・でもなさそうだ。カメラを取り出しズームで見る。
カモシカ? 初めて見た! シャッターを押しながら、少し興奮する。
腐った木橋にぶつかる。 渡れるか? 少し踏んでみる。ヌルヌルだ。昨日の雨のせいもあるかもしれないが、苔と腐った木肌でヌルヌルしている。こんな滑る橋を渡れるか? ストックの先端のゴムを外し、木橋に突き刺しながら一歩一歩慎重に歩く。綱渡りってこんな気分なんだろうか。
なんとか渡りきった。両足がカクっとなる。きっと両足にものすごい力を入れていたんだ。
こんな崩壊箇所は、次から次へと出てくる。慎重に歩けば、なんとか渡れる程度だが、気の休まる暇が無い。
板小屋沢、モチノキ沢と越えて、しばらく進んだところで大崩壊地にぶつかる。これは無理。ここは絶対に渡れない。イガイガさんが書いていた、二つ目の崩壊場所だ。イガイガさんはなんて書いていた? 思い出せ。 そうだ20m上を高巻くと書いてあったはずだ。
道を戻りながら、上へ登るルートを探る。やはり踏み跡が有った。急斜面を木につかまりながらよじ登る。20mほど登って、崩壊地の上を渡る。今度は急斜面を、木につかまりながら降りる。
ヤッタ! 渡りきったゾ。
崩壊地をクリアーして、ホッとしたのも束の間。またヌルヌル橋だ。(写真は渡りきった後に撮ったもの)
1本目の橋は先程の要領で慎重に渡る。が、2本目は無理だ。橋が傾いている。ヌルヌルの上にこんなに傾いていたら、絶対に滑り落ちる。橋の下、チョロチョロと水が流れる急傾斜の沢を岩にしがみつきながら渡る。
渡りながら、「死にたくねぇ~」と思う。だったら、こんな事しなきゃいいのに・・・
また腐った木橋だ。もう木橋にはうんざりだ。こんな橋渡れるわけないだろ!
ここは上へ巻く。5~6m登ったら、なんとか巻けた。
11時30分 玄倉林道へ降り立つ。雨山橋の少し手前、第八隧道の脇だ。
山神峠から約2時間。なんとか歩ききった。緊張の連続だった。長い戦いだった。肉体よりも精神的に疲れきっていた。
林道の真ん中に大の字に寝転ぶ。青空だ。抜けるような秋の空だ。
じわじわと達成感が込み上げてくる。
ヤッタぞ! 勝ったゾ!
エピローグ
後は雨山峠を越えて寄大橋へ戻るだけだが・・・。まずい、予定時間をオーバーしている。今日は、夕方からアイカタ(奥様)の買い物に付き合う約束なんだ。3時までに戻る約束だから、寄大橋には1時半に戻らなければならない。後2時間弱。普通に歩けば2時間半はかかる。急ごう。
雨山峠の道をギアをトップに入れて、急ぎ足で歩く。雨山峠の道だって、アチコチで荒れていて歩き難い道では有るが、山神径路に比べたら散歩道みたいなもんだ。
あの道を歩ききった事で、そんな事が思えるくらいになっている。確実に自分の実力がアップした気がする。
なんだろう! この達成感と満足感。今迄で一番だ。
それだけ手ごわい相手だった。
もし、山神径路歩きを考えている人がいるのなら、聞いて欲しい。
とても危険な道です。たぶん、日に日に崩壊が進んでいる道です。そして木橋は本当にヤバイ。崩壊地を巻いて渡る事よりも、腐った木橋を渡る事の方が怖い。腐ってヌルヌルになった木橋は、想像以上に滑るんです。雨の次の日だったから、ヌルヌルだったのかもしれません。雨の日は絶対に危険です。もし、この道を歩くならば、腐った木橋を渡る対策が必要です。私が再びこの道を訪れる事があるとしたら、きっと軽アイゼンは持っていくでしょう。
最近のコメント